サバービア週報

精神的なこと。これも技術のうち

トランプ支持者とプロレスファンの共通点

どうも、本部長です。

アメリカの大統領選挙を見て、トランプ支持者が在りし日のプロレスファンと重なって見えたので、ぼんやりと考えたことをまとめてみた。

暴れるトランプ支持者

先週、トランプ支持者が記者会見に押し入り、バイデンの不正を主張する事件があった。

彼はこんなことを主張している。

The Biden crime family's stealing this election!
バイデン犯罪一家がこの選挙で不正をしている!

The media's covering it up!
メディアはそれを隠蔽している!

We want our freedom for the world!
われわれは世界のために自由を求める!

Give us our freedom Joe Biden!
われわれに自由を与えよ、ジョー・バイデン!

Joe Biden's covering up this election!
ジョー・バイデンがこの選挙を隠蔽している!

He's stealing it!
彼は不正をしている!

ざっと見たところ、トランプが主張する不正選挙陰謀論を素朴に信じてしまっていることが伺える。

信じたいものを信じる、陰謀論を真に受ける。そういう頭の悪い感じがじわっとにじみ出ていて、うわぁ…となってしまうが、アメリカの田舎にはこんな感じの人がたくさんいるのだと思う。

しかし、トランプに7千万人もの人が投票した事実には、単に「頭が悪いから」では説明できない何かがある。背後にはもっと大きな「文明の流れ」とでも言うべき潮流があるのではないかと。

資本主義社会は持たざる人を痛めつける性質を持つ。それに反発し、怒ることはそんなに悪いことだろうか。あえてトランプ支持者側に立ってみれば、そういう理屈にも理があるように思える。

安冨歩さんが指摘した構造そのものが不正ではないかという問い

この点について清水有高さんが主宰する「一月万冊」の動画で安冨歩さんがすごくしっくりくる説明をしていたので引用してみたい。

54分48秒くらいから


東大教授と語る【選挙と分断】大統領選挙どうなる?選挙の裏に見えるアメリカ合衆国の貧富の差による分断。安冨歩教授電話出演。一月万冊清水有高。

 

安冨:(アメリカの)奥のほうにいる人たちは一生懸命ポテトを作ったり、牛乳を搾ったりしているのに、タダ同然で都会の奴に買われているわけですね。

清水:そらムカつくわ。日本の学歴格差もひどいけど、アメリカの比じゃないからね。アメリカのほうがよっぽどひどい。そういう蓄積があるんだな。

安冨:そう。それを考えたらさ、これ「不正じゃん」って。構造が不正じゃんって。思いません?

清水:ああ、そうやね。思う思う。すごいわかる。こんな風にそもそも搾取されてるなんておかしいと。

安冨:それで選挙したらさ、みんな一生懸命トランプに入れてるのに、ミルウォーキーの奴らが「郵便投票!」とか言ってピュウっとやって、で、「ウィスコンシンはバイデン!」とかになったら「ふざけんなコラ!」ってなりません?

清水:クソーーーーー!(笑) なるなる。不正だね。俺もそう思うわ(笑)。「メディアはCNNもワシントンポストもみんなフェイクニュースを垂れ流している!」って(笑)

安冨:あいつらみんな都会の奴だからね。

(中略)

安冨:この真っ赤っ赤なところにいるトランプに投票した人たちと、青いところでバイデンに入れてるやつと、どっちがイイ奴やねんっていったらね、かなりの確率で田舎にいてトランプに入れてるおっちゃんとかのほうがイイ奴なんですよ。

都会に住むイケ好かない大卒の奴らが、田舎の人たちを搾取していく構造がトランプ出現以前からずっとある。資本主義だ、グローバル経済だ、なんだと理屈を並べて俺たちが作った野菜を安値で買い叩いていくが、なんなんだアイツらはと。その構造自体が不正なものではないか?というわけだ。

そういった情念が4年前にトランプを当選させた。

(動画の引用部分は切り取り方の問題で安冨歩さんと清水有高さんがまるでトランプ支持者のようにも読めるが、そういうわけではない)

幻想にすがりつくトランプ支持者とかつてのプロレスファンとの共通点

トランプは「忘れ去られた人々」、いわば資本主義社会で痛めつけられた人たちの癒やしとなり、彼らを票田・勢力としてまとめることに成功した。

彼らは「トランプは負けた」と薄々わかっているが、祈るような気持ちで「不正選挙だ」と主張する。それを見ていて、私は2000年代に入ってもなおプロレス最強幻想にすがりついていた人たちを思い出してしまった。

彼らは「プロレスラーは弱い」と薄々わかっていながらも、幻想を捨てられずにいた。現実世界で傷ついた心をプロレスで癒やしていたからだと思う。

在りし日の格闘技界・プロレス界では、そういった幻想にすがりつく人たちを食い物にしていたところがある。

悪く言えば、バカを食い物にするマーケティング戦略と言える。

トランプも同じだろう。トランプ自身は「忘れ去られた人々」というわけではないだけに、よりタチが悪いとも言える。

プロレスラーが総合格闘技に挑戦し始めたのが、1990年代半ば。レスリングや柔道など、アマチュア競技の実績がある選手でも、数年単位でプロレスに浸かった選手はほとんど勝てなかった。桜庭和志や藤田和之のような純粋なプロレスラーとは言えない選手が例外的に勝つのだが、それが幻想の崩壊を無駄に遅らせてしまった感もある。

永田裕志vsヒョードルが2003年の大晦日で、永田の惨敗が広く周知された2004年になって、ようやくすべてのプロレスファンが気付いた感じだった。もうどう言い訳してもプロレス最強幻想は幻想に過ぎなかったことを認めるほかない状況になっていた。

つまり、およそ10年間、総合格闘技出現以前のUWF時代を含めれば20年間くらい、プロレス・格闘技界はなんだか夢でも見ているような、妙な状態だったとも言える。

プロレスファンは幻想が崩壊した後、ピタっと会場に来なくなった。格闘技の会場にも、プロレスの会場にも来なくなった。弱いプロレスラーにキレて暴れるわけでもなく、プロレス批判の雑誌やライターに肩入れするわけでもなく、サッと引いた感じだった。その後、2010年くらいまで、プロレス暗黒時代が続いた。

トランプ支持者も盛り上がるのはあと数年、その後はサッと引いてしまうのではないかと思っている。